『あと一歩だよ』が届かない理由──摂食障害のお子さんに必要なのは“治す言葉”ではなく“聴いてもらえる安心感”

お母さん「娘が14歳から摂食症でもう5年になります。昔に比べたら食べられるようになっています。
だから私は毎日、
『回復しているよ』
『大丈夫だよ』
『あと一歩で治るよ』と声をかけています。
でも娘からは『うるさい』と言われて、
状況が変わりません…」
このようなご相談を、本当にたくさんいただきます。
大橋お母さまが拒食でほとんど食べられなかった時期を知っているからこそ、
「食べられるようになった」
「前より良くなっている」という変化を見つけると、
「もう少しだよ」
「ここまで来たんだから、あと一歩だよ」と励ましてあげたくなりますよね。
そして何より、一日でも早く我が子に元気になってほしい。そう願っているからこその言葉だと思います。
あなたにも、同じような経験はありませんか?

公認心理師として「親子過食卒業レッスン」を主催している大橋とも(オレンジ)です。
▶著書「わが子が摂食障害になったら読む本」
(Amazon「ストレス・心の部門」予約1位)
▶読売新聞オンライン『ヨミドクター』掲載
▶婦人公論JP掲載
▶LuckyFM茨城『ダイバーシティ-ニュース』出演
トラウマ・愛着・マインドフルネスを専門に、
摂食障害のお子さんを持つ親御さんの支援を行っています。
私自身も25年以上、摂食障害の当事者として苦しんだ経験があり、
その経験と専門家としての視点の両方から、今日はお話ししたいと思います。

1「あと一歩だよ」が、なぜ届かないのか
お母さんが「もうすぐだよ」「あと一歩で治るよ」と伝えたくなる気持ち。
これは本当に自然で、そして深い愛情から出てくる言葉ですよね。
ただ、この言葉を受け取る側
──特に繊細で自己否定が強くなりやすい摂食障害のお子さん──には、
まったく違う意味で届いてしまうことがあります。
その理由を、登山の例えでお話ししますね。
✦ 八合目まで必死で登ってきたときに「あと二合だよ」と言われたら?
想像してみてください。
あなたが、
苦しくて、しんどくて、何度も立ち止まりながら、
それでも一歩ずつ頑張って 八合目まで登ってきたとします。
そのときに、

「八合目まで来たね、よく頑張ったね」
と、ここまで達成してきたことを認めてもらえるのか、
それとも、

「あと二合だよ、もう少しだよ」
と、まだ達成していない部分を指摘されるのか。
あなたなら、どちらが励みになりますか?
お母さんが励ましたい気持ちで伝えた言葉が、ネガティブに変換されることも…
お母さん「あと少しで、できるよ」
という言葉は、
お子さん「あと少し『できていないところがある』っていうことね
お子さん「今の私のままじゃダメだから、
もっと『できるようにならなきゃ」いけないんだね
とお子さんの中で変換されることがあります
お母さん「やれば、できるよ」
という言葉は
お子さん「やってないから、できていない」っていうことね
お子さん「やればできるはずなのに、やってないから怠けている」っていう意味だよね
お子さんもっとがんばれ、っていうこと?
今の私のままじゃ、ダメなんだね
もっとできるようにならなきゃ…
というような否定的なニュアンスで受け取られてしまうことがあるんです。
励ましが力になるのは「過程を認めてもらえたとき」
実は、心理学の視点でいうと、「達成していないこと」を伝えるよりも、「達成したこと」を伝えたほうが、その行動が増えやすくなるんです。
自分が頑張ってきた過程を認めてもらえたときに、初めて次の一歩を踏み出す力が湧いてきます。
もし「八合目まで来ているな」と感じるのであれば、

「ここまでよく登ってきたね」

「本当に頑張ってきたね」

「しんどい中でも進んできたんだね」
という いたわり・ねぎらい・過程の承認 を先に伝えてあげることが、
残りの二合を登る力につながります。
「あと一歩だよ」の前に必要なのは、安心と承認
「あと一歩だよ」という言葉は、
本来は励ましのつもりでも、
お子さんにとっては
「まだ足りていない」
「もっと頑張らなきゃ」
「できていない自分はダメなんだ」
というプレッシャーに変わってしまうことがあります。
だからこそ、
“できていない部分”ではなく、
“ここまで来た道のり”に光を当てること。
これが、摂食障害の回復を後押しする大きな力になりますよ。
2受講生のお母さまが教えてくれたこと
「親子過食卒業レッスン」を受講されたお母さまが、ご自身の変化を振り返ってくださったお話をご紹介します(ご本人の承諾を得て掲載しています)。
① 受講前
私は娘を励ましたくて、 「もうかなり治っているよ」「あと1歩で治るよ」と声を掛け続けていました。 過食して落ち込む娘には「大丈夫だよ」と言い続けていましたが、娘の過食は変わりませんでした。
一日でも早く治ってほしくて、 「ああしたら?」「こうしたら?」「この人に会ってみたら?」とアドバイスを続けていました。 今思えば私は、娘が早く治ることで自分が安心したかったのだと思います。
その言葉は娘にとって 「まだ治ってないよ」「足りてないよ」「もっと頑張れ」 というプレッシャーになっていたことに気づけていませんでした。
過食が止まらず「大丈夫と思えない」娘に向けて、経験したことのない私が「大丈夫だよ」と言っても届くはずがなく、実際には私自身の不安を消すための言葉になっていたのだと、今なら分かります。
② 講座での気づき
講座で 「親が治そうとするほど、子どもはどう感じるか」 を学びました。
娘が求めていたのは
“治してくれること”ではなく、
“つらい気持ちを聴いてくれること”
“そのままの自分を受け入れてもらうこと” だったと気づきました。
私は「話を聞いているつもり」でしたが、娘の本心は聴けていなかったのだと痛感しました。
講座で学んだ 「4つの聴き方」 を練習し、アドバイスや励ましを控えるようにしたところ、娘がポツリ、ポツリと気持ちを話してくれるようになりました。
③ アフター(変化)
私の関わり方が変わったことで、娘は以前より安心して本音を話してくれるようになり、過食の量や回数も少しずつ減ってきています。
外食で揚げ物を一緒に食べることもできるようになりました。娘が「おいしいね」と食べている姿を見ることができるのは、とてもうれしいです。
3必要なのは「治す力」ではなく「聴く力」
摂食障害がもう何年も続いている。過食や嘔吐が止まらない。そんなお子さんを前にして、「私がもっと何とかしなければ」と思われるのは、お子さんへの深い愛情があるからこそです。決して、お母さんの関わり方が間違っていたということではありません。
大切にしていただきたいのは、摂食障害は「病気」であるという視点です。
がんや心臓病と同じように、摂食障害もまた医学的・心理的な専門支援を必要とする病気であり、ご家族一人の努力や想いだけで治せるものではありません。回復には、専門家によるサポートと、時間の両方が必要です。気になる症状がある場合は、自己判断だけに頼らず、医療機関や専門家に相談することも大切な選択肢の一つです。
その上で、ご家庭でできることがあるとすれば、それは「治すこと」ではなく、「お母さんには何を話しても大丈夫」という安心感を、少しずつ増やしていくことです。
4今日からできる、小さな関わり方の変化
「あと一歩だよ」と言いたくなったとき、代わりにできることがあります。
- 結果ではなく、今の気持ちに目を向ける(「食べられたね」ではなく「今日はどんな一日だった?」)
- アドバイスの前に、まず気持ちを受け止める(「それはつらかったね」)
- 「治ってほしい」という願いは、いったん自分の中にしまっておく
食べることの背景にある不安や孤独、生きづらさが少しずつ楽になるほど、「食べることの症状」もまた、少しずつ手放されていきます。
お子さんの摂食障害に、日々向き合っておられるあなたへ。「あと一歩だよ」がなかなか届かないと感じるとき、それはあなたの関わり方が間違っているからではありません。氷山の水面下にある苦しさに、まだ光が届いていないだけなのです。
「親子過食卒業レッスン」では、お子さんの本音を理解しやすくなる「4つの聴き方」を練習しながら、親子の安心感を育てていきます。不定期で体験会も開催していますので、ぜひ今後の情報もチェックしてみてくださいね。
📌 お知らせ
出版記念セミナー
8/26(水)20:00〜21:00 オンライン開催
主催:NPO法人マインドフルネス心理臨床センター詳細・お申込みはこちら
著書
『わが子が摂食障害になったら読む本』(Amazon発売中)Amazonで見る

コメント