摂食障害がやめられないのは「メリット」があるから

摂食障害の症状は「浮き輪」|10月講座で考えた、症状のメリットとデメリット
摂食障害25年の当事者経験と、トラウマ・愛着・マインドフルネスを専門とする公認心理師としての視点から、摂食障害のお子さんを支えるお母さんをサポートしています。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。
🎤 登壇・講師実績
- 株式会社dreamin「食べ過ぎと心のストレスセミナー」講師
- NPO法人マインドフルネス心理臨床センター「過食とマインドフルネス」セミナー講師
- NPO法人マインドフルネス心理臨床センター『わが子が摂食障害になったら読む本』出版記念セミナー講師
- MBRP講師養成講座 講師(第2期)/MBRP講師(第4期)
- トラウマリカバリーカレッジあさがや主催「自分とつながり、関係を育む非暴力コミュニケーション――基礎から学び、体験に聴くNVC入門」登壇
- 起業家勉強会「アダルトチルドレンと家族関係」セミナー登壇
※本サイト内での感想や実績は、クライアント様個人の感想や実績であり、同様の結果を保証するものではありません。変化には個人差があります。サイト内の事例等については、掲載許可を得たもの、または、よくある事例を元に再構成をしたものです。いずれも個人が特定できないように一部を改変しています。
食事のとき以外は、部屋から出てこない
夜。家のなかはしんとしていて、お子さんの部屋のドアは閉まったまま。
食事のときだけ、ふっと出てくる。食べ終わると、また部屋に戻っていく。話しかけるタイミングもつかめないまま、今日も一日が終わっていく。
あなたのご家庭では、いかがでしょうか。
そして、こんな気持ちになることはありませんか。
👩 この症状さえなくなってくれたら。摂食障害を手放して、普通に食べられるようになってほしい
ご家族として自然な願いだと思います。
ただ、その「手放してほしい」という願いが、なかなか届かないのには理由があります。今日は、そのことについてお話しします。
こんにちは。「親子過食卒業レッスン」主催、公認心理師の大橋とも(オレンジ)です。私自身、中学2年生の冬に摂食障害を発症し、25年以上を当事者として過ごしました。症状を手放せなかった側の実感と、公認心理師としての視点の両方から、お伝えしていきます。
10月の講座で取り組んだ「メリット・デメリットのワーク」
10月5日(月)に開催した「親子過食卒業レッスンお母さま講座」2026年10月講座では、摂食障害のメリットとデメリットについて考えるワークを行いました。
デメリットのほうは、分かりやすいかもしれませんね。
- 体に負担がかかる(過食も拒食も)
- 食べることばかり考えてしまう/ほかのことが手につかない
- 人と食事に行けない/友だちと会えない
- お金がかかる、時間がかかる。
- 何より、本人が苦しい
では、メリットはどうでしょうか。
「メリットなんて、あるはずがない」。そう感じられるかもしれません。でも、実はデメリットの裏には、必ずメリットがあります。(そして、摂食障害のデメリットは、回復の推進力にもなります)
メリットがあるからこそ、
手放せないのです。
講座では、「じゃあ、どんなメリットがあるんだろう」ということを、参加されたお母さま方と一緒に見ていきました。
お子さん本人にとってのメリット
よく挙がるのは、こんなことです。
症状が本人にもたらしているもの
■ ストレス解消になっている
■ 束の間の癒しになっている
■ つらい感情から、一時的に解放される
■「できた」という達成感を味わえる
私自身の当事者時代を振り返っても、そうでした。食べることや食べないことは、そのときの私にとって、一時的だけど、すごく役に立つ対処法だったのです。
💭 他にやり方を知らなかった。これをやめたら、どうやって自分をもたせたらいいのか分からなかったんです
そして実は、ご家族にとってのメリットもあります
そんな風にきくと「えっ」とびっくりされるかもしれませんよね。
お子さんの摂食障害に、ご家族にとってのメリットがある。そんなふうに考えたことは、おそらくほとんどないと思います。
でも、たとえばこういうことがあります。
お子さんは、食べることや食べないことで、自分の気持ちを、ある程度ひとりで整理しています。だからこそ、その分、ご家族に直接ぶつかってくることが少なくなっている。
もし摂食障害の症状を使っていなかったら、お子さんはもっとたくさんのストレスを、言葉や態度でご家族に直接ぶつけていたかもしれません。
そして——これはとても重い話ですが——もしかしたら、命が続いていなかった可能性も、決して小さくないのです。
摂食障害の症状は「浮き輪」です
摂食障害の症状は、よく「浮き輪」にたとえられます。
浮き輪は、使わなければ溺れて沈んでしまう。
だからこそ、今この浮き輪が手放せない。
その状態が、摂食障害です。
そう考えると、「早くその浮き輪を外しなさい」という言葉が、お子さんにどう聞こえるかが見えてきます。それは、沈めと言われているのと同じなのです。
ですから、ご家族からして、お子さんが摂食障害であることのメリットは何かと言われたら——
いちばん大きいのは、
お子さんが生きている、ということです。
症状を今すぐ手放してしまったら、浮き輪を失って沈んでしまうかもしれない。これ以上の生きづらさに直面して、生きることをやめてしまうかもしれない。
だからこそ今、浮き輪を使って、苦しいながらも、なんとか命をつないでいる。
生きていてくれる。それが、ご家族にとってのいちばんのメリットなのではないか。そんな話を、講座のなかで皆さんとシェアしていきました。
ここで、著書でも繰り返しお伝えしている言葉をもう一度。お子さんは「困った子」ではなく、「困っている子」です。症状は、わがままでも甘えでもなく、生き延びるための、必死の手段なのです。
部屋にこもることも、ひとつの「浮き輪」かもしれません
冒頭に書いた「食事のとき以外は部屋から出てこない」という姿も、同じ目で見ることができます。
お母さんから見ると、それは避けられているように感じられるかもしれません。心配なのに、何も話してくれない。寂しさと焦りが、同時に押し寄せることもありますよね。
それでは、お子さんの側から見るとどうでしょうか。
部屋は、誰からも見られず、評価されず、何も説明しなくていい、安全な場所かもしれません。心と体を休ませるために、そこに避難している。そう考えると、部屋にこもることもまた、ひとつの浮き輪なのです。
ですから、無理に引っぱり出すことや、気持ちを聞き出すことが、回復に近づく道とはかぎりません。部屋から出てこないことを問題として扱うより、「部屋から出てみたくなる安心感」を増やしていくほうが、結果として早いことがあります。
返事がなくても、後追いしない。無理に話そうとさせない。そうやって「減らせる刺激を減らす」ことで、安全な感覚を積み上げることができます。
なぜ、わざわざ「メリット」を見ていくのか
講座でこのワークをすると、こういうご質問をいただくことがあります。
👩 メリットを認めてしまったら、症状を肯定することになりませんか?
とても大切なご質問です。お答えすると、認めることと、肯定することは違います。
「この症状には、本人にとってこういう役割がある」と理解することは、「このままでいい」と言うことではありません。むしろ逆です。役割が分かるからこそ、その役割を別のもので引き受けられるようになります。
①浮き輪を取り上げるのではなく、浮き輪がいらない環境をつくる
(まずは、減らせる刺激を減らす。)
感情を感じても大丈夫だという体の感覚であったり、食べること以外の気晴らしであったりします。どれも一日では育ちませんが、ひとつ増えるごとに、浮き輪に頼る割合は確実に減っていきます。
そしてもうひとつ。メリットを見ていくと、お母さんの中の「なんで分かってくれないの」という気持ちが、少しほどけます。分からなかったのではなく、お子さんにはお子さんなりの理由があった。そう思えるだけで、関わり方のトーンが変わっていきます。
浮き輪を使い続けることも、また苦しい
とはいえ、浮き輪につかまり続けている状態は、決して楽ではありません。
手を離せば沈むと分かっているから、ずっと力を入れていなければならない。体は冷えていく。岸は遠い。ご本人は、ものすごく消耗しています。
そして、その姿を見ているご家族も、同じくらい消耗していきます。
- いつまで続くのか分からない不安
- 食費や通院の負担
- 相談できる相手がいない孤独
- 「私の育て方が悪かったのでは」という自責
摂食障害はさまざまな要因が重なって起こるもので、原因を誰か一人の人に求められるようなものではないのです。
お母さん自身が、支えられていてほしい
では、ご家族は何をすればいいのでしょうか。
浮き輪を無理やり取り上げることではありません。浮き輪がなくても浮いていられるように、少しずつ別の支えを増やしていくこと。そのために必要なのは、時間と、安心できる関係です。
そして、それをお母さんが一人で担おうとしないことです。
溺れそうな人を支えるには、支える側の足が地についている必要があります。お母さんが消耗しきった状態では、支えきれません。これは気持ちの問題ではなく、構造の問題です。
✅ 症状を「なくすべきもの」ではなく「今は必要なもの」として見てみる
✅ お母さん自身が話せる場所を、ひとつ持っておく
✅ 医療・相談機関・家族会など、頼れる先を一人で抱えこまず複数つくる
「相談する場所がない」というお声も、よくうかがいます。身近な人ほど話しにくい、というのも本当によく分かります。摂食障害は見た目で伝わりにくく、善意からの「食べさせればいいのに」という言葉に、何度も傷ついてこられた方も多いからです。
だからこそ、同じ状況を知っている人がいる場所を、ひとつ持っておいていただきたいのです。説明しなくても分かってもらえる。それだけで、お母さんの肩の力は変わります。
お子さんの症状が重い場合や、体の状態が心配な場合は、必ず医療機関にご相談ください。ご家族だけで抱える段階ではないことも、少なくありません。
おわりに
「早く手放してほしい」という願いの奥にあるのは、お子さんに元気でいてほしいという、まっすぐな愛情です。その気持ちは、何ひとつ間違っていません。
ただ、浮き輪は、岸が見えてきたときに、自分から手放せるようになります。取り上げられて手放すのではなく、もう必要ないと分かったときに、自然と離れていく。
その日まで、お子さんを支えるお母さん自身も、どうか支えられていてください。
一人で抱えなくていいのです。
10月の講座にご参加くださった皆さま、ありがとうございました。言葉にしにくいことを分かち合ってくださったこと、心から感謝しています。
なお、症状をどう捉えるか、お子さんにどう接するかについては、著書『わが子が摂食障害になったら読む本』の第1章・第2章でも詳しく書いています。よろしければ、あわせて読んでみてください。
一人で抱えず、一緒に考えてみませんか
「親子過食卒業レッスン」では、グループ講座と個別セッションを通して、お母さんが支えられながらお子さんを支えていけるようサポートしています。実際に受けられた方の声も、こちらでご覧いただけます。
著者プロフィール
中学2年生の冬に摂食障害を発症し、25年以上を当事者として過ごす。公立小学校教諭として20年間勤務したのち、公認心理師としてトラウマ・愛着・マインドフルネスを専門に活動。親子過食卒業レッスンのグループ講座や個別セッションで、摂食障害のお子さんとご家族をサポートしている。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。


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