摂食障害の娘に「言いすぎる」をやめたら何が変わったか|秋桜の会・大久保潤子さんとコラボライブ開催報告

大橋とも
大橋とも
公認心理師/「親子過食卒業レッスン」主催
わが子が摂食障害になったら読む本

14歳で摂食症(摂食障害)を発症し、25年以上の当事者経験を経て回復。現在は公認心理師として、トラウマケア・愛着・マインドフルネスの視点から、当事者の方とご家族の個別セッション・グループ講座を行う。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。

🎤 登壇・講師実績

  • NPO法人マインドフルネス心理臨床センター「過食とマインドフルネス」セミナー 講師
  • NPO法人マインドフルネス心理臨床センター『わが子が摂食障害になったら読む本』出版記念セミナー 講師
  • NPO法人マインドフルネス心理臨床センター MBRP講師養成講座 講師(第2期)/MBRP講師(第4期)
  • 株式会社dreamin「食べ過ぎと心のストレスセミナー」 講師
  • トラウマリカバリーカレッジあさがや主催「自分とつながり、関係を育む非暴力コミュニケーション――基礎から学び、体験に聴くNVC入門」 登壇
  • 起業家勉強会「アダルトチルドレンと家族関係」セミナー 登壇

※本サイト内での感想や実績は、クライアント様個人の感想や実績であり、同様の結果を保証するものではありません。変化には個人差があります。サイト内の事例等については、掲載許可を得たもの、または、よくある事例を元に再構成をしたものです。いずれも個人が特定できないように一部を改変しています。

「もう食べないで」と言えば、傷つけてしまいそう。何も言わなければ、見て見ぬふりをしているようで苦しい。どちらを選んでも、お母さんの胸だけがざわざわする——そんな夜を、何度過ごしてこられたでしょうか。

先日、当事者会・家族会「秋桜の会」を主催されている大久保潤子さんをお迎えして、YouTubeコラボライブの第2弾を開催しました。1回目のライブには当事者の方からたくさんのコメントをいただきましたが、そのなかにご家族の立場からのご相談も数多く寄せられました。そこで今回は、テーマを「ご家族の立場の方へ」を中心にお届けしています。

この記事を書いているのは、公認心理師の大橋ともです。私自身、14歳で過食嘔吐がはじまり、吐く時期・吐かない過食の時期・食べることが怖くなる時期をくりかえしながら、25年以上を摂食症とともに生きてきた当事者でもあります。この記事では、1時間のライブでお話しした内容を、ご家族に持ち帰っていただきたい順番に整理しました。アーカイブ動画へのリンクは記事の最後にあります。

目次

今回のライブでお話ししたこと

じゅんこさんは、10代後半から約20年にわたって拒食・過食・過食嘔吐と向き合ってこられた方です。当時はインターネットもなく、「病気」という認識すら持てないまま、誰にも言えずに過ごされたといいます。結婚・出産・離婚を経て、40歳前後で回復。現在は、ご自身の経験をもとに毎月の家族会・当事者会を開き、個別相談にも応じていらっしゃいます。

今回いただいたご質問の中心は、「摂食症の母娘は依存関係になりやすいと聞くけれど、本当にそうなのか」「お母さんが生き方を変えないといけないのか」というものでした。ここから、お話しした内容を3つに分けてご紹介します。

①「親子の依存」は、だれかを責めるためのことばではない

まず、いちばん大切な前提をお伝えします。摂食症は、お母さんの育て方でなるものではありません。体質、気質、発達の段階、社会からの「やせていることがよい」というメッセージ、人間関係のできごと——さまざまな要因が重なって起こります。ですから「依存」ということばは、犯人をさがすために使うものではないのです。

そのうえで、じゅんこさんは、ご自身とお母さまの関係も、ご自身と娘さんの関係も、どちらも依存的だったと振り返られました。小さなころから「お母さんが心地よく過ごせるように自分はどうしたらいいか」を考え、何かを決めるときはまず母に聞く。お母さまのほうも、不安そうな顔を見れば先回りして提案してくれる。その関係しか知らないまま、ご自身が母親になった——そうおっしゃっていました。

育ててもらった経験でしか、母親になれなかった。

保育士として他のお子さんと関わるときにはできることが、わが子にはどうしてもできない。知識はあっても、自分の心が追いつかない。これは、いま苦しんでいらっしゃる多くのお母さんが、そのまま首をたてに振られるところではないでしょうか。連鎖しているのは「悪いもの」ではなく、「親子関係の苦しいパターン」なのだと思います。

② 娘さんの現実が変わらなくても、「見える景色」は変わる

じゅんこさんの転機は、ある人から「それは、じゅんこさんの心配ですよね」と言われたことだったそうです。それまでは「親だから心配して当然でしょう」と思っていた。けれど言われてはじめて、“娘の問題”だと思っていたものの中に、自分自身の不安がたっぷり混ざっていたことに気づかれたといいます。

心配したくないのに心配してしまう。どんと構えていたいのに構えていられない。まだ起きていない未来を、何度も先取りして怖がってしまう。その奥にあったのは、「レールから外れたらどうしよう」というご自身の価値観でした。成績がいいこと、学校に行くこと、受験できること——それらが「そうでなければいけないもの」から「娘が決めればいいこと」に変わったとき、娘さんの状況はまだ何も変わっていなかったのに、心配の質が変わった。そして、かける言葉と見守る姿勢が変わっていったそうです。

③ 渡したい愛情と、いま欲しい愛情の「時間差」

ライブの中で、私からもひとつお話ししました。ご家族が子どもに渡したい愛情は、いわば「未来行きの切符」のようなものです。この子が5年後10年後に困らないように、安全な道を歩けるように、という願いが入ることが多いですよね。

いっぽう、症状のただ中にいる当事者が欲しい愛情は、「今夜をどう越えるか」のための毛布です。1年後のことを考える余裕はなく、ただ今が苦しい。だから、未来行きの切符を差し出されても受け取れないし、受け取れない自分をまた責めてしまう。

どちらが正しいのでも、どちらが悪いのでもありません。同じ「愛情」ということばなのに、時計の針がずれているのです。このずれがあると知っているだけで、「なぜ伝わらないの」という苦しさは、少しだけ形を変えます。

じゅんこさんが「やめたこと」と「始めたこと」

ライブでは、実際の関わりがどう変わったのかも具体的にお話しいただきました。大きく3つです。

1つめは、口うるさく言うのをやめたこと。勉強のこと、成績のこと、遅刻のこと。先回りして言えば言うほど、娘さんはテストを隠すようになり、「お母さんがうるさい」が先に立って、自分がどうしたいのかを考える機会そのものが失われていった。困ってみてはじめて、本人は自分の望みに気づける——そう思えるようになってから、言葉を減らしていったそうです。

2つめは、一喜一憂しない自分づくり。娘さんが泣いても、心配になる行動をしても、その場で動揺しない自分でいる努力をされたといいます。お母さんが慌てると、子どもは「私のせいでお母さんを困らせた」と受け取り、泣く姿さえ見せなくなって部屋にこもってしまう。ここで大切なのは、我慢して黙ることではなく、慌てずにいられる心の状態を自分の側に用意することです。

「見守る」と「放置」は違う。

3つめは、善悪をつけず、方向性を指示せず、気持ちにだけ徹底的に寄り添うこと。

公認心理師の視点から|心の器は「広げる」前に、なぜ狭くなったのかを見る

ライブの終盤、視聴者の方から「心の器を広げるための考え方のヒントが知りたい」というご質問をいただきました。私がトラウマケアの視点からお伝えしたのは、器が小さくなっているのは、その人の性格や努力不足ではないということです。広げられなかった事情、あるいは小さくならざるを得なかった経験が、これまでのどこかにあった。だから今そうなっているのです。

人は、まだ解決していない苦しい経験を抱えていると、「これ以上つらい思いをしないため」に多くのエネルギーを使います。当事者の方にとって、それが食べることや食べないことであるように、ご家族にとっては「子どもをどうにかしてあげよう」と自分の外側を変えようとする形であらわれることが多いんです。摂食障害のご本人もご家族も立場が違うように見えますが、起きていることと、対応の仕方はとてもよく似ているのです。

ただし、その根っこに触れることは、ひとりでは怖い作業でもあります。だからこそ安全に、詳しい方や専門家と一緒に進めていただきたいと思います。じゅんこさんが学ばれた道もあれば、私が用いているマインドフルネスやトラウマケアの道もある。登山口はいくつもあって、頂上はひとつです。「これなら興味がある」「これはほっとする」と感じたところから始めていただければ十分です。

今日から試せる3つのこと

1. 心配を「出す」場所をひとつ持つ。家族の中だけで抱えると、心配は濃くなっていきます。じゅんこさんも、仲間や先生にアウトプットすることで「自分は本当は何が不安なのか」が見えるようになったとお話しされていました。しがらみのない相手のほうが話しやすい、ということもよくあります。

2.「どうしたらいい?」の前に「そんなにつらかったんだね」。解決策は、気持ちが受け取られたあとでないと届きません。順番を入れ替えるだけで、会話が続くようになることがあります。

3. お母さん自身が楽しむ時間を、1日5分でも。「本人が苦しそうだから、自分が楽しんではいけない」と思っていらっしゃる方は本当に多いです。けれど、まわりの大人が先に楽になることは、めぐりめぐって当事者の方の支えになります。お母さんに笑顔が戻ったことが、娘さんが本音を話しはじめるきっかけになった——じゅんこさんのお話は、まさにそれを教えてくれるものでした。

当事者だった私が、いちばん嬉しかったこと

今回のライブの準備をしながら、「自分があのころ、されて嬉しかったことは何だったかな」と思い出していました。浮かんできたのは、食べることでも体型のことでも進路のことでもありません。

当時、私はカロリーを消費するのに、よく登山をしていたんです。あるとき、大きな山に登ろうとしたときに、母親も一緒にきてくれました。3000メートル超の山だったので、負担もあったと思うのですが、それでも登ってくれました。

「親が私にさせたいこと」ではなく、

「私がしたいことを、親が一緒にしてくれた。」

これが、今思い出しても、心の支えになっています。

じゅんこさんも、「心配されればされるほど、”私はそんなに心配されるくらい人と違うんだ、困った人なんだ”と思ってしまった」とおっしゃっていました。症状は困っているかもしれないけれど、私が困った人なのではない。病気を前提にせず、ふつうに向き合ってもらえることが、当事者にとっては支えになること。お互いの経験が、重なった場面でした。

アーカイブ動画はこちらから

ライブは約1時間。ご家族からのご質問に、じゅんこさんと私がそれぞれの立場からお答えしています。文字では伝わりきらない間や声のトーンも含めて、よろしければご覧ください。

▶ コラボライブ第2弾「ご家族の立場の方へ」を見る(約60分)

【動画の主な内容】
09:17 母娘は依存関係になりやすい?
18:40「それはあなたの心配ですよね」と言われて気づいたこと
24:27 口うるさく言わなくなった
27:36「見守る」と「放置」は違う
33:00「消えてしまいたい」と言われたとき
38:47 渡したい愛情と、いま欲しい愛情の「時間差」
48:47 心の器を広げる考え方のヒントは?

まとめ

今回のライブでお伝えしたかったことを、3つにまとめます。

1. 摂食症は親の育て方でなるものではなく、「依存」は犯人さがしのことばではないこと。
2. 娘さんの現実が変わらなくても、お母さんの中の「こうあるべき」がゆるむと、見える景色と関わり方が変わること。
3. 心の器は根性で広げるものではなく、狭くならざるを得なかった背景を、安全な場でケアしていくものであること。

ご家族には、当事者とはまた違う苦しさと困難があります。どうか、おひとりで抱えないでください。みんなで安心して、みんなで楽になっていける方向へ。これからもそうした場をつくっていきたいと思っています。

お知らせ

■ 個別セッション・グループ講座について
「親子過食卒業レッスン」では、公認心理師によるトラウマケア・愛着・マインドフルネスの視点から、当事者の方とご家族の回復をサポートしています。実際に受けられた方のご感想と、体験の流れはこちらをご覧ください。
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著者プロフィール

大橋とも
大橋とも
公認心理師/「親子過食卒業レッスン」主催
わが子が摂食障害になったら読む本

14歳で摂食症(摂食障害)を発症し、25年以上の当事者経験を経て回復。現在は公認心理師として、トラウマケア・愛着・マインドフルネスの視点から、当事者の方とご家族の個別セッション・グループ講座を行う。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。

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