摂食障害で不登校・引きこもりになる理由と、お母さんにできる声かけ3つ

大橋とも(オレンジ)
公認心理師/『親子過食卒業レッスン』主催
25年以上の摂食障害の当事者経験と、公認心理師(トラウマ・愛着・マインドフルネス)としての視点の両方から発信しています。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。
🎤 登壇・講師実績
・株式会社dreamin「食べ過ぎと心のストレスセミナー」講師
・NPO法人マインドフルネス心理臨床センター「過食とマインドフルネス」セミナー講師/『わが子が摂食障害になったら読む本』出版記念セミナー/MBRP講師養成講座 講師
・トラウマリカバリーカレッジあさがや主催「自分とつながり、関係を育む非暴力コミュニケーション――基礎から学び、体験に聴くNVC入門」登壇
・起業家勉強会「アダルトチルドレンと家族関係」セミナー講師
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「今は学校を休んで落ち着いているけれど、また学校が始まったら、娘が不安定になるんじゃないか」
「このまま家に引きこもっていたら、この子はどうなってしまうんだろう」
摂食障害のお子さんが学校に行かなくなったとき、そんな心配がふくらむお母さんは、とても多いです。
娘さんから「学校に行きたくない」「もう何もしたくない」「過食したい」という言葉が出てくると、つい前に進ませたくなることもあると思います。
でも、そんなときに少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。娘さんは前に進みたくないのではなく、今は“深海に潜っている”のかもしれません。
この記事では、摂食障害のお子さんが学校に行かず部屋にこもる理由を、私自身の当事者としての体験と、公認心理師としての視点の両方からお伝えします。
私自身も、高校時代は「深海」にいました
私自身、高校時代に学校へ通えなくなり、家で毎日ひとりで過食をしていた時期があります。
当時の私は、「自分の居場所は、家と学校しかない」と思っていました。だから学校に行けなくなったとき、「社会からドロップアウトした」「ダメ人間」「もう二度と元の場所には戻れない」と感じていました。
学校に行ける同世代の人たちは、光の当たる場所で軽やかに飛ぶ「トビウオ」。学校に行けない私は、深い海の底でひっそり生きている「深海魚」。そんなふうに思っていました。
トビウオは自由に飛べて、キラキラしています。でも、深海魚の存在は誰にも気づかれません。どんなにがんばっても、トビウオみたいに飛ぶことはできません。
「どうして私は、みんなみたいにできないんだろう」。そう思うほど、自分が惨めになっていきました。
勉強をがんばっても、上には上がいる。人気のある人にもなれない。ダイエットをしても、もっと痩せてきれいな人がいる。200%がんばっても、300%がんばっても、それでも届かない。
だから私は、誰のことも見なくて済むように、学校に行かず、部屋に引きこもり、もっと深いところへ、もっと深いところへと潜っていきました。
今になって分かるのは、あれは怠けていたのではなく、これ以上傷つかないための、精一杯の自己防衛だったということです。
引きこもりは「怠け」ではなく、心と体の防衛反応です
摂食障害のお子さんを見ていると、学校に行かない。人に会わない。部屋にこもる。過食する、または拒食する。運動や食事のルーティーン以外は何もしようとしない……そんな姿が続くことがあります。
その姿を見て、「このままで大丈夫なの?」「社会に戻れなくなるんじゃない?」と思うのは、とても自然なお気持ちです。娘さんに元気になってほしいからこそ、何とか水面に戻してあげたくなるんですよね。
ただ、ここで知っておいていただきたいことがあります。人の心と体には、安心・危険・危機に応じて切り替わる3つのモードがあります。
緑モード……安心している状態。人と話せる、聴ける、考えられる。コミュニケーションに最適なモード。
赤モード……イライラ・不安・焦りでいっぱいの状態。過食が止まらなくなりやすい。
青モード……これ以上は無理、とシャットダウンした状態。動けない、話せない、何もしたくない。拒食や引きこもりと結びつきやすい。
部屋から出られない、何もしたくない、人に会いたくない——これはやる気の問題ではなく、青モードに入っているサインであることが少なくありません。
青モードは、心と体が「これ以上傷つくと壊れてしまう」と判断したときに働く、いわばブレーキです。本人が選んでいるのではなく、自律神経のはたらきとして起きています。だから「気合いで外に出なさい」と言われても、アクセルを踏むことができません。
そう考えると、見え方が少し変わってきます。娘さんは困った子ではなく、困っている子。この順番が入れ替わるだけで、かける言葉が変わってきます。
「深海」は、娘さんにとって安心できる場所なのかもしれない
学校には、先生の目、友達の目、勉強、人間関係、「ちゃんとしなきゃ」というプレッシャーがあります。そして、周りと比べてしまう。自分だけができないように感じる。
そんな場所に戻ることが、今の娘さんにはとても大きな負担になっていることがあります。
「学校に行きたくない」は、「楽をしたい」「怠けたい」ということではなく、「これ以上、傷つきたくない」「これ以上、がんばれない」「安心できる場所にいたい」という心の動きなのかもしれません。
過食についても同じです。「どうしてやめられないの?」と責めるだけではなく、「この子は今、何から自分を守ろうとしているんだろう?」という視点で見てみることができます。
食べ方だけを変えようとすると、たいていうまくいきません。食べ方の奥にある心を丸ごと受け止めていくことが、遠回りのようでいて、いちばんの近道になります。
「早く水面に戻そう」としなくてもいい
お母さんが心配になるのは当然です。だからといって、お母さんがすべてを受け入れて我慢し続けなければならない、という話ではありません。
大切なのは、娘さんの今の状態を“やる気や能力の問題”だけで見ないこと。そして、問いの向きを変えることです。
×「どうしたら学校に行ける?」
○「外に出られないくらい、何が負担になっているんだろう? どうしたら、この子の安心が増えるんだろう?」
安心が少しずつ増えてくると、人とのつながりを求めたり、やってみたいことが出てきたりして、自分から水面に近づいていくことがあります。
お母さんにできるのは「引っ張る」より「そばにいる」
娘さんが深海にいるとき、水面から呼び続ける言葉は、なかなか届きません。
【届きにくい言葉】
「早く上がっておいで」
「みんなは学校に行っているよ」
「このままだと将来困るよ」
届きやすいのは、深海まで一緒に潜っていくような言葉です。
【届きやすい言葉】
「今はしんどいんだね」
「学校のことを考えると、怖くなるのかな」
「ここでは安心していていいよ」
「話したくなったら、いつでも聴くよ」
ここで大切なのは、①今の苦しさを変えようとしないことと、②安心して気持ちを出せる場所をつくることの2つです。
深海にいる人に必要なのは、「早く泳いで」と言われることではなく、「今は、ここにいても大丈夫」と感じられることなのかもしれません。
聴くときは、耳と目と心で
娘さんが少し話してくれたとき、アドバイスを返したくなります。けれど青モードのときに必要なのは、正しい答えよりも「分かってもらえた」という感覚です。
言葉の内容だけでなく、表情や声のトーン、その奥にある気持ちまで。耳と目と心で聴くキャッチャー役になることが、安心のいちばんの土台になります。
伝えたいことは「否定」ではなく「要望」として
とはいえ、お母さんにも伝えたいことがあります。そのときは、相手を主語にした否定ではなく、Iメッセージ(私を主語にした要望)で伝えてみてください。
×「そんな食べ方はやめなさい」
○「お母さんは、あなたの体が心配。だから、夜の分は一緒に決めておきたいな」
同じ内容でも、否定として届くか、要望として届くかで、お子さんの心の扉の開き方はまったく変わります。
「深海にいる=一生そこにいる」ではありません
今、学校に行けなくても。人に会えなくても。過食してしまっても。「何もしたくない」と言っていても。それだけで「この子はこのままなんだ」と決まったわけではありません。
深海にいることと、一生深海から出られないことは、同じではありません。
まずは、安心できる場所で呼吸を取り戻す。「分かってもらえる」「否定されない」「急かされない」——そんな体験が少しずつ増えていく。その積み重ねが、いつか自分から水面へ向かう力につながっていくことがあります。
私自身も、あの深海から出るまでに長い時間がかかりました。けれど、出られないまま終わることはありませんでした。
助けに行くなら、ひとりではなく「チーム」で
深海にいる娘さんを助けたいと願うなら、お母さんがひとりで潜っていくのではなく、実際のレスキュー隊のようにチームで助けに行くことが必要です。
ひとりで潜り続けると、お母さん自身の酸素がなくなってしまいます。お母さんが赤モードのままでは、どんなに正しい言葉も届きません。支える人を支える仕組みが要るのです。
まとめ:今日からできる3つのこと
1. 「どうしたら学校に行ける?」ではなく「何が負担なんだろう?」と問いを変える
2. 水面から呼ぶ言葉より、「今はしんどいんだね」とそばにいる言葉を選ぶ
3. お母さんがひとりで抱えず、相談できる相手やチームをつくる
摂食障害からの回復は、症状を止めることからではなく、安心を増やすことから始まります。お子さんの心と体に何が起きているのかについては、著書『わが子が摂食障害になったら読む本』でも詳しくお伝えしています。
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