痩せてきれいになれば治るではない。広瀬アリスさんの告白が教えてくれる、摂食障害の回復の本当の意味とは?
「結果を出せば治る」ではなかった――広瀬アリスさんの告白が教えてくれる、摂食障害の回復のほんとうの意味
大橋とも(公認心理師)
「親子過食卒業レッスン」主催。トラウマ・愛着・マインドフルネスを専門とする公認心理師。自身も25年以上、摂食障害の当事者でした。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。

🎤 登壇・講師実績
- 株式会社dreamin「食べ過ぎと心のストレスセミナー」 講師
- NPO法人マインドフルネス心理臨床センター「過食とマインドフルネス」セミナー 講師
- NPO法人マインドフルネス心理臨床センター『わが子が摂食障害になったら読む本』出版記念セミナー 講師
- MBRP講師養成講座(第2期)講師/MBRP講師(第4期)
- トラウマリカバリーカレッジあさがや主催「自分とつながり、関係を育む非暴力コミュニケーション――基礎から学び、体験に聴くNVC入門」 登壇
- 起業家勉強会「アダルトチルドレンと家族関係」セミナー 登壇
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「学校にも行けている。アルバイトも続いている。久しぶりに会った親戚からは『元気そうになったね』と言われる。
──なのに、どうして、食べ方だけが戻らないんだろう」
そんなふうに、首をかしげた夜はありませんか。
まわりから見える「結果」はちゃんと出ている。だから、もうそろそろ治ってもいいはずなのに。そう思うたびに、お母さんのほうが置いていかれるような気持ちになる。
その「ちぐはぐさ」の正体を、今日はいっしょに見ていきたいと思います。
「結果を出していても、治っていない」という告白
2026年10月4日に放送される日本テレビ系『おしゃれクリップ』(毎週日曜 後10:00)に、俳優の広瀬アリスさんが出演されると報じられました。
報道によれば、広瀬さんは10代後半から20代前半にかけて摂食障害と闘っていたことを番組で明かし、「今も100パーセント治ってると思わない」と語られたそうです。
私はこの一文を読んで、しばらく画面から目を離せませんでした。
14歳でモデルとしてデビューし、その後、俳優として誰もが知る存在になられた方です。一般的な物差しで言えば、これ以上ないほどの「結果」です。多くの人が一生かけても届かない場所に、すでに立っておられる。
それでも、ご本人の実感としては「100パーセント治った」ではない。
これは、とても大切なことを教えてくれていると思うのです。
「条件を達成すること」は、回復ではない
摂食障害のただ中にいるとき、頭の中にはこんな「条件」が並びます。
- きれいになれば、きっと楽になる
- 人気者になれば、安心できる
- あの人みたいになれば、この苦しさは消える
- 合格すれば/就職できれば、もう大丈夫
では、その条件を達成したら治るのでしょうか。
実は、違うのです。
私自身、25年以上、摂食障害の当事者でした。資格を取っても、人から褒められても、「これで終わった」という日は一度も来ませんでした。条件を一つ達成すると、次の条件が静かに立ち上がってくる。ゴールテープのように見えたものが、近づくとただの白線だったと気づく。その繰り返しでした。
だから、お子さんが学校に戻れたこと、体重が増えたこと、笑う回数が増えたこと――それはもちろん大きな一歩です。けれど、それらは回復の「条件」ではなく、回復の途中に現れる「風景」にすぎません。
回復とは、条件を達成することではないのです。
「期待を察知する力」が強い、という共通点
報道では、明るく社交的なイメージを持たれる広瀬さんの内側に、いつも明るい自分でいなければ、という思いがあったことも紹介されています。お母さまも、毎日フル回転で帰宅して抜け殻のようだった、と当時を振り返っておられるそうです。
ここに、私が多くの当事者の方と接してきて感じる共通点が、はっきりと表れていると思いました。
それは、まわりの期待を察知する力がとても高いということ。そして、その期待に応えるために、すさまじい努力ができてしまうということです。
場の空気を読む。相手が何を求めているかを、言われる前に感じ取る。期待どおりの自分を、きちんと差し出す。
これは本来、繊細さであり、やさしさであり、才能です。けれどその力が長く休みなく働き続けると、ある日ふと、こんなことが起こります。
「まわりがどう思うか」はわかるのに、「自分がどうしたいか」がわからない。
これは、困った子だからではありません。困っている子だからです。
「困った子」ではなく、「困っている子」。
この見方の転換が、親子のあいだの空気を変えていきます。
BEの自信とDOの自信
私は著書の中で、自信には2種類ある、とお伝えしています。
DOの自信(条件つきの自信)
「できたから」「結果を出したから」「評価されたから」生まれる自信です。これは積み上げられる一方で、条件が外れると一瞬で崩れます。結果が出続けるかぎり支えてくれますが、裏を返せば、休むことを許してくれない自信でもあります。
BEの自信(無条件の自信)
「何もできなくても、ここにいていい」という感覚です。成果とは関係なく、ただ存在していることが受け入れられている、という土台の安心感。
摂食障害からの回復でほんとうに必要になるのは、DOの自信を増やすことではなく、BEの自信を育て直すことです。
どれほど大きな成果があっても、それはDOの自信を厚くするだけで、BEの自信には直接つながりません。だから、「あの人みたいになれば治る」は、残念ながら成り立たないのです。
回復のカギは「期待」と「自分の想い」のギャップを調整すること
では、何が回復のカギになるのでしょうか。
私は、まわりの期待と、自分のほんとうの想いとのあいだにあるギャップを、少しずつ調整していくことだと考えています。
期待をすべて捨てる、ということではありません。期待に応えることをやめる、ということでもありません。
そうではなく、「いま私は、まわりの期待のほうに傾いているな」と気づける自分を取り戻していく。そして、ほんの少しだけ、自分の想いのほうに重心を戻してみる。この往復ができるようになることが、回復の中身なのだと思います。
心と体に安心感が戻ってくると、人はこの調整ができるようになります。逆に、安心感が足りないとき――ポリヴェーガル理論でいう赤モード(イライラ・不安・過食)や青モード(シャットダウン・拒食)に入っているときは、期待を察知するアンテナだけが過剰に働き、自分の想いにアクセスできなくなります。
だからこそ、まず必要なのは「正しい食べ方」ではなく、緑モード(安心・コミュニケーションに最適な状態)に戻れる時間を増やすことなのです。
お母さんが今日からできる、3つのこと
1.「結果」ではなく「今日の感じ」を聞いてみる
「どうだった?」は、つい結果を尋ねる質問になりがちです。そのかわりに、「今日はどんな感じだった?」と聞いてみてください。
答えが返ってこなくても大丈夫です。答えを引き出すことより、「あなたの中身に関心がある」と伝わることのほうが大事だからです。
2.耳と目と心で聴く「キャッチャー役」になる
アドバイスをしたくなったときほど、いったん受け止めるだけにしてみる。評価せず、直そうとせず、ただ受け取る。
投げられたボールが、きちんと届いた。その手応えが、「ここにいていい」という感覚=BEの自信を少しずつ育てていきます。
3.気になることは「否定」ではなく「要望」として伝える
「そんな食べ方はやめなさい」は否定のメッセージです。これを、「私は、あなたが元気でいてくれるとうれしい」というIメッセージの要望に置き換えてみてください。
伝える内容は同じでも、受け取る側の心の扉の開き方が、まったく変わります。
手紙が届いた、ということ
番組の最後には、現在けんか中だというお母さまからの手紙が代読され、「娘のことを考えなかった日は31年間一度もありません」という言葉に、広瀬さんは涙を流されたと報じられています。そして、ちゃんと今日話そうと思う、と語られたそうです。
私は、ここに希望があると思いました。
けんかをしていても。何年もすれ違っていても。素直になれない時期が続いていても。
想いは、届くときには届くのです。
今日、お子さんに何も言えなかった。何を言っても間違えている気がした。そんな日があっても、どうかご自分を責めないでください。「考えなかった日は一度もない」という事実そのものが、いつか届く手紙になります。
まとめ
- 大きな成果や結果を出していても、摂食障害が自動的に治るわけではない
- きれいになる・人気者になる・合格する――条件の達成は、回復とイコールではない
- 当事者の方には、まわりの期待を察知する力が高く、応えるために努力できる、という共通点がある
- 必要なのはDOの自信を増やすことではなく、BEの自信を育て直すこと
- 回復のカギは、まわりの期待と自分の想いのギャップを調整していくこと
- そのために、まず心と体が緑モードに戻れる時間を増やしていく
お子さんの回復は、「何かになること」ではなく、「自分の想いに戻ってこられるようになること」。
今夜の放送を、私も拝見しようと思います。
「食べ方」ではなく「心」から整えていきませんか
「親子過食卒業レッスン」のグループ講座や個別セッションでは、お母さんご自身が緑モードに戻る練習から、お子さんへの伝え方までを、ごいっしょに整えていきます。まずは体験セッションの様子をご覧ください。
📖 お知らせ
この記事でふれた「BEの自信とDOの自信」「赤・緑・青の3つのモード」「否定ではなく要望として伝える」については、著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)でも、より詳しくお伝えしています。
著者プロフィール
大橋とも(公認心理師)
「親子過食卒業レッスン」主催。トラウマ・愛着・マインドフルネスを専門とする公認心理師。自身も25年以上、摂食障害の当事者でした。著書『わが子が摂食障害になったら読む本』(松本功 監修/ビジネス社)はAmazon「ストレス・心の病気」部門で予約1位。読売新聞オンライン(ヨミドクター)、婦人公論.jpなどに掲載、FMラジオにも出演。


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